広島地方裁判所 昭和51年(行ウ)12号の1 判決 1992年10月29日
広島市西区南観音一丁目三番四四号
甲事件原告
田中務
広島市中区河原町一番三号
乙事件原告
扶桑商事株式会社
右代表者清算人
山崎勝
右両名訴訟代理人弁護士
相良勝美
右訴訟復代理人弁護士
広島敦隆
広島市中区上八丁掘三番一九号
甲事件被告
広島東税務署長 米今喜作
広島市西区観音新町一丁目一七番三号
乙事件被告
広島西税務署長 平田博紀
右両名指定代理人
富岡淳
同
岡田克彦
同
大橋勝美
同
西村章
同
矢野聡彦
主文
一 甲事件被告広島東税務署長が昭和四七年五月一〇日付けでした甲事件原告田中務の昭和四四年分所得税の更正処分のうち総所得金額一五一二万一一三五円を超える部分を取り消す。
二 乙事件被告広島西税務署長が昭和四七年五月九日付けでした乙事件原告扶桑商事株式会社の昭和四四年一二月二四日から昭和四五年一〇月三一までの事業年度の法人税法の更正処分を取り消す。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、甲事件原告田中務と甲事件被告広島東税務署長との間では、一〇分し、その九を同原告の負担とし、その余を同被告の負担とし、乙事件原告扶桑商事株式会社と乙事件被告広島西税務署長との間では、一〇分し、その一を同原告の負担とし、その余を同被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
(甲事件について)
1 甲事件被告広島東税務署長(以下「被告東税務署長」という。)が昭和四七年五月一〇日付けでした甲事件原告田中務(「以下「原告田中」という。)の昭和四四年分所得税の更正処分のうち総所得金額一三九万二四八〇円を超える部分(異議決定及び審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。
(乙事件について)
2 乙事件被告広島西税務署長(以下「被告西税務署長」という。)が昭和四七年五月九日付けでした乙事件原告扶桑商事株式会社(以下「原告会社」という。)の昭和四四年一二月二四日から昭和四五年一〇月三一までの事業年度(以下「四四事業年度」という。)以降の法人税の青色申告承認取消処分は無効であることを確認する。
3 主文二項と同旨
(甲、乙両事件について)
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
(甲事件について)
1 原告田中の請求を棄却する。
2 訴訟費用は同原告の負担とする。
(乙事件について)
1 原告会社の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は同原告の負担とする。
第二当事者の主張
(甲事件)
一 請求原因
1(一) 原告田中は、別紙1の所得税の課税経過表の確定申告欄記載のとおり、昭和四五年三月三日、被告東税務署長に対し昭和四四年分所得税について総所得金額を一三九万二四八〇円(うち事業所得は四〇万円)とする確定申告をした。
(二) 同被告は、同原告に対し、同表の更正欄記載のとおり、昭和四七年五月一〇日付けで総所得金額を一七四万四四八〇円(うち事業所得金額は一六四五万二〇〇〇円)とする更正処分(以下「本件甲原処分」という。)をした。
(三) 同原告は、同被告に対し、右更正処分を不服として昭和四七年六月九日、異議申立てをしたところ、同被告は、同年九月一四日、右更正を一部取り消し、総所得金額を一七〇四万五一八二円(うち事業所得金額は一六〇五万二七〇二円)とする旨の決定をした。さらに、同原告は、国税不服審判所長に対し、同年一〇月九日、右決定を不服として審査請求をしたところ、同所長は、昭和五一年一月三一日、これを一部取り消し、総所得金額を一五七四万二七六三円(うち事業所得金額は、一四七五万二八三円)とする旨の裁決をした(以下、右一部取消後の前記更正を「本件甲更正」という。)。
2 しかし、本件甲更正は、次の理由で違法である。
(一) 手続上の違法
(1) 本件甲原処分は、国税通則法「以下「通則法」という。)二四条及び所得税法二三四条二項の各規定に違反してなされた手続上違法な処分である。
(2) 被告東税務署長は、国税査察官が領置した原告らの帳簿、書類等の留置をいたずらに続け、審査請求期間を徒過して相当日数を経過した後にようやく返還したり、原告田中が本件甲原処分の内容開示と説明を求めたのにこれを拒否するなど意図的に同原告の異議申立て及び審査請求を妨害し、同原告の不服申立権を侵害した。
(二) 所得金額算定の違法
本件甲更正のうち、総所得税金額一三九万二四八〇円(うち事業所得四〇万円)を超える部分は、事業所得の認定を誤り、原告田中の総所得金額を過大に算定したものであるから違法である。
3 よって、原告田中は、被告東税務署長に対し、本件甲更正のうち、総所得金額一三九万二四八〇円(うち事業所得四〇万円)を超える部分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は認める。
2 同2は争う。
三 被告東税務署長の主張
1 手続上の適法性
(一) 本件甲原処分は、原告田中及び原告会社に脱税の嫌疑があったことから、広島国税局査察部の査察官が調査に着手し、その調査で得た資料を被告東税務署長が更に調査検討して行ったものであるが、課税庁が内部において既に収集した資料を基礎として正当な課税標準を求めることも通則法二四条に規定する調査に該当するから、右処分は、同条の規定に違反せず適法である。
また、仮に、税務所長による調査がなされていない場合であっても、更正又は決定をするに必要な資料が調査をするまでもなく既に収集されているような場合には、改めて調査をすることなく更正又は決定をしても、これをもって違法事由とすることはできない。
(二) 所得税法二三四条二項の規定は、同条一項の規定による国税庁、国税局又は税務署の職員の質問、検査の権限を犯罪捜査に利用することを禁止する趣旨であり、国税犯則取締法に基づく調査によって得られた資料を徴税の資料として利用することまで禁ずる趣旨ではない。したがって、同法に基づき収集した資料を所得税の課税資料として利用しても所得税法二三四条二項の規定の趣旨に反するものとはいえない。
2 所得金額算定の適法性
(一) 原告田中の昭和四四年分の総所得金額は、不動産所得金額七二万四八〇円、給与所得金額二七万二〇〇〇円及び事業所得金額一五六七万三三五八円の合計金額である一六六六万五七三八円であるが、事業所得金額については、次に述べるとおり推計課税によって算定したものである。
(二) 推計課税の必要性及び合理性
原告田中は、金融業を営んでいるものでるが、被告東税務署長が、同原告の昭和四四年分の事業所得について調査したところ、同原告は、事業に関する帳簿書類を作成しておらず、原始記録の保管も不十分であった上、調査に対する協力も得られず、収支計算によって所得金額を計算することが不可能であった。そこで、同被告は、やむを得ず所得税法一五六条(推計による更正又は決定)の規定を適用して調査によって把握できた年初及び年末の貸付金、借入金等の各科目の金額を基にして、資産負債増減法((期末純資産(総資産から総負債を控除した残額)から期首純資産を差し引くことにより当期所得を算定する方法)により同原告の事業所得金額を推計したものであって、右方法による推計は、合理的な推計方法である。
(三) 計算期間
同原告の昭和四四年分の事業所得を資産負債増減法により算定する場合の計算期間は、次の述べる理由により昭和四四年一月一日から同年一二月二三日までである。
すなわち、同原告は、昭和四四年一二月二三日にそれまで個人で営んでいた金融業を廃止し、翌二四日、同原告が代表取締役となって新規設立した原告会社に対し、その資産、負債を引き継いだから、同日以降に原告田中の個人事業に係る所得金額が発生する余地は全く存在しない。
したがって、同原告の昭和四四年度の事業所得を資産負債増減法により推計するに当たり、その期末の日となるのは昭和四四年一二月二三日である(以下、昭和四四年一月一日から同年一二月二三日までの期間を「係争事業期間」という。)。
(四) 昭和四四年度の事業所得金額
本件甲更正は、原告田中の期首と期末における資産及び負債を調査して、各々その純資産を算出し、その差額を同原告の事業所得と認定したものであるが、資産負債増減法による右所得金額の計算を行う場合の総所得金額となるべき金額は、右差額の部分と当該期間中に同原告が生活費として費消した部分との合計金額となる。そして、右総所得金額に対応するものは、事業所得金額と右事業所得所金額以外の所得の金額からなるものであるから、同原告の事業所得の金額は、純資産の増加額に同原告の生活費を加えた額から事業所得以外の所得金額である不動産所得及び給与収入の金額を控除した残額である。
(1) 純資産の増加額
原告田中の係争事業期間の期首及び期末における資産及び負債の額は別紙2の1の(1)資産負債増減表のとおりであり、その内訳は、別紙3ないし5のとおりである。
したがって、同原告の係争事業期間の純資産の増加額は、別紙2の1の(2)のとおり一四七五万二八三円である。
(2) 生活費
同原告の係争事業期間における生活費は、別紙2の2のとおり二〇五万八五二八円である。
(3) 不動産所得
同原告の昭和四四年度の不動産所得は、七二万四八〇円であるから、係争事業期間中の不動産所得の金額は、七〇万五一九七円となる。
七二万四八〇円×(三五七÷三六五日)=七〇万五一九七円(ただし、右七二万四八〇円は、七二万一〇〇〇円として計算した。)
(4) 給与収入
同原告の昭和四四年度の給与収入は、四四万円であるから、同原告の係争事業期間中の給与収入の額は、四三万三五六円となる。
四四万円×(三五七÷三六五日)=四三万三五六円
(5) 事業所得の金額
したがって、同原告の昭和四四年度の事業所得の金額は、右(1)と(2)を合計した金額から同原告の事業所得以外の収入(右(3)と(4)との合計額)を差し引いた残額である。一五六七万三二五八円となる。
(五) 総所得金額の算定
原告田中の昭和四四年分の不動産所得金額は、七二万四八〇円であり、給与所得金額は、二七万二〇〇〇円である。
したがって、同原告の昭和四四年分の総所得金額は、右(四)の(5)の事業所得金額、右不動産所得金額及び給与所得金額の合計額である一六六六万五七三八円となる。
(六) 同業者比率による推計
なお、原告田中の係争事業期間すなわち昭和四四年度の事業所得の金額につき同業者比率を適用して推計すると、次のとおり少なくとも一九四一万九〇六四円となるのであって、右(四)の(5)の事業所得金額は、その範囲内にある。
(1) 同原告の貸付金の回収金額
<1> 同原告の預金口座への入金額
係争事業期間に別紙8の番号1ないし30記載の同原告の預金口座(以下「同原告の預金口座」という。)に入金された合計金額から、預金利息、貸付金戻利り息及び金融機関からの借入金の入金合計金額を控除した残額は、別表8の
<2> 事業所得の収入金額以外の収入金額
同原告が昭和四五年三月三日に被告東税務署長に対して提出した昭和四四年分所得税の確定申告書によると、昭和四四年中の同原告の事業所得に係る収入金額以外の収入金額は、不動産所得に係る収入金額九四万八〇〇〇円及び給与所得に係る収入金額四四万円を合計した一三八万八〇〇〇円である。
<3> 金融事業の貸付金回収額
したがって、同原告の預金口座に入金された金額のうち四億七六〇一万八四六三円(別紙8の
<4> 貸付金回収額算定の合理性
右貸付金の回収額四億七四六三万四六三円の算定の基礎とした同原告の預金口座の入金額は、大半が手形、小切手によっており、右手形、小切手による入金は、貸付先からの入金額、すなわち貸付金回収額である。さらに、同原告のように個人の金融業者が利用している当座預金口座及び普通預金口座のように、頻繁に入金、出金が繰り返されれる状況においては、貸付けに供していない資金(いわゆる遊休資金)を保有することは社会通念上考えられないのであるから、同原告が貸付金に供していない遊休資金を保管していたとは到底認められない。
また、同原告の預金口座相互間において、資金の預け替え等の必要性も存しないことから、同原告の預金口座の入金額の中には、右預け替え等による循環金がなかったことも明らかである。そうすると、同原告の預金口座の右現金入金額も貸付金及び利息を回収したものであることが優に窺えるから、右計算方法により同原告の貸付金の回収額を認定することは正当である。
ところで、貸付先に当座預金の取引のない者や銀行取引停止のため当座預金を利用できない者等もおり、借主が現金で返済する場合もあるのであって、これら現金での回収金が金融業者の預金口座へ入金されないまま他の貸付けに当てられることも多い一般的な金融業の業態からみて、小口融資も手広くやっている同原告において、同原告の預金口座への入金合計額以外にも同原告の貸付金の回収額の存在することが容易に窮われるところ、前記認定方法により算定した同原告の貸付金の回収額は、実際の同原告の貸付金の回収額よりもかなり下回った額というべきものである。
(2) 事業所得金額の算定
同原告の右貸付金の回収額を基礎として、同業者である原告会社の金融部門における公表(確定申告)の利息割合(貸付金回収金額に対する受取利息金額の割合をいう。以下同じ。)及び経費率(受取利息金額に対する一般管理費、販売費及び支払利息、割引料、貸倒損失の合計金額の割合をいう。以下同じ。)を適用し、原告田中の係争事業期間の事業所得の金額を推計すると次のとおりとなる。
<1> 貸付金に係る利息収入の金額について
同原告の貸付金の回収額四億七四六三万四六三円に、原告会社の四四事業年度の公表の利息割合一二・四七パーセントを乗ずると、原告田中の貸付金に係る利息収入は、少なくとも五九一八万六四一八円となる。
(原告会社の昭和四四事業年度の公表の利息割合)
貸付利息収入一九八六万九八九四円÷貸付回収金の総額一億五九二九万九五一一円×一〇〇=一二・四七パーセント
(原告田中の利息収入)
貸付金の回収額四億七四六三万四六三円×利息割合一二・四七パーセント=五九一八万六四一八円
<2> 必要経費について
原告田中の利息収入の金額五一八万六四一八円に、原告会社の金融部門の四四事業年度の経費率六七・一九パーセントを乗ずると、原告田中の必要経費の金額は、三九六七万七三五四円となる。
(原告会社の金融部門の公表の経費率)
(一般管理費、販売費八〇一万二五〇八円+支払利息、割引料、貸倒損失五三三万九〇六四円)+受取利息一九八六万九八九四円×一〇〇=六七・一九パーセント
(注)一般管理費、販売費については、原告会社が法人のため、原告田中(代表者)に支給した役員報酬の額二三〇万円を控除した(個人換算に修正)。
(原告田中の必要経費)
同原告の利息収入五九一八万六四一八円×経費率六七・一九パーセント=三九七六万七三五四円
<3> 原告田中の事業所得の金額
したがって、前記<1>で算出した利息収入の金額五九一八万六四一八円から前記<2>で算出した必要経費の金額三九七六万七三五四円を差し引くと、同原告の係争事業期間、すなわち昭和四四年分の事業所得の金額は、少なくとも一九四一万九〇六四円となる
<4> 類似同業者比率の合理性
ところで、類似同業者とした原告会社は、原告田中が昭和四四年一二月二三日に個人事業(金融業)を廃止した後の同原告が代表取締役となって設立された金融業を営む会社であって、営業場所も同原告のそれと同一場所にあり、営業案内に関しても個人営業形態が法人化されたものにすぎず、同原告のそれと全く同一である。
したがって、原告会社の利息割合及び経費率は、原告田中にとって類似同業者比率というよりむしろ本人比率というべきものであり、適用時期に約一年のずれはあるものの、これを適用するに当たり特に支障となる理由は存しないのであって、そうすると、同原告の昭和四四年分の事業所得の金額を算出するに当たって、原告会社の四四事業年度の利息割合及び経費率を類似同業者比率として適用することは、極めて合理性を有するものといえる。
(七) よって、右金額の範囲内で原告田中の総所得金額を一五七四万二七六三円と認定した本件甲更正は、適法である。
四 被告東税務署長の主張に対する認否及び反論
1(一) 同被告の主張1の(一)のうち、国税査察官が調査に着手し、資料を得たことは認めるが、その余は争う。
同被告は、本件甲原処分に当たり、原告田中に対し所得税法二三四条一項に基づく質問、検査はもちろん、何ら通則法二四条に定める調査を行っていないのであって、右処分は、同条に違反する違法な処分である。
(二) 同1の(二)は争う。
被告東税務署長は、本件甲原処分を行うに当たり、原告田中に対し所得税法二三四条一項の質問検査を一回も行わず、警察官や国税査察官が同原告に対する国税に関する犯則事件(以下「犯則事件」という。)について犯罪捜査の目的で収集した資料を基礎として右処分ほかの課税処分を行った。しかし、同条二項が、同条一項による質問検査(一般税務調査)の権限は、犯罪捜査のため認められたものと解してはならない旨規定していることは照らし、犯罪捜査に従事すべき国税査察官、警察官は、右権限を行使することができないものである。しかも、原告田中に対する犯則事件については、告発はもちろん公訴提起もなされなかったものであるから、本件項原処分についての調査は、本来一般税務調査として行われるべきものであった。しかるに、右処分は、警察官及び国税査察官が逮捕、勾留あるいは捜索等犯罪捜査の手法により収集した資料に基づいてなされたのであるから、所得税法二三四条二項に違反する。
2(一) 同2の(一)のうち、不動産所得金額及び給与所得金額が同被告主張のとおりであることは認めるが、その余は否認する。
(二) 同2の(二)のうち、原告田中が金融業を営んでいることは認めるが、その余りは否認する。
(三) 同2の(三)のうち、昭和四四年一二月二四日に原告田中が代表取締役となり、原告会社が設立されたことは認めるが、その余りは否認する。
原告田中は、所得税法施行規則九八条一項により事業に係る事務所を廃止した旨の届出を被告東税務署長に提出したところ、同被告は、事務所の廃止を事業の廃止と混同し、右届出をもって同原告が営業を廃止したものと誤認している。しかし、同原告は、その後も貸付金の回収等の営業活動を行い、昭和四五年一月九日広島県知事に対し改正前の出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律七条二項二号に基づき貸金業廃止の届出をし、その免許が同日限り取り消されたのであるから、同原告が営業を廃止したのは、昭和四五年一月九日である。
したがって、同原告の昭和四四年分の事業所得を資産負債増減法により算定する場合の期末は、昭和四四年一二月三一日とすべきである。
さらに、被告東税務署長は、本件甲原処分において、資産負債増減法により原告田中の事業所得を推計するに当たり、期首となるべき日を誤って算定している。すなわち、期首は、昭和四四年一月一日とすべきであるのに、同被告の昭和四七年九月一四日付け異議決定書に添付された、資産負債増減法による事業所得計算のための貸借対照表では、期首が昭和四三年一二月三一日と記載されているのであって、同被告は、昭和四四年に含まれない昭和四三年一二月三一日を期首として計算している。右一二月三一日を期首とした場合には、通則法一〇条一項一号によって同日の午前〇時が基準時となり、翌日である一月一日の午前〇時までには二四時間のずれがある。同原告は、金融業を営んでおり、大晦日である一二月三一日には貸付金の弁済や新規貸付けが頻繁に行われたのであって、その資産及び負債には当然変動があった。
(四) 同2の(四)の冒頭部分は争う。
被告東税務署長は、本件甲原処分及び異議決定において、資産負債増減法により原告田中の事業所得を算定しているところ、右算定に当たり、期首及び期末におけるそれぞれの総資産額及び総負債額から純資産額を算出し、さらにこれらの額から純資産増加額を算出して、これをそのまま同原告の事業所得金額としており、同原告の不動産所得金額及び給与収入を控除していないし、また生活費の加算も行っていない。右方法により算定した事業所得金額に基づいて更正した場合には、右不動産所得金額及び給与収入金額の部分について二重に課税したことになる。ところが、同被告は、本件訴訟に至って、資産負債増減法による計算において右不動産所得金額及び給与収入金額の控除並びに生活費の加算等を行うなど右と異なる計算方法に基づいて同原告の事業所得金額を主張しているが、このようなことは許されないところである。
(五) 同2の(四)の(1)についての認否は、次のとおりである。
(1) 期末資産について
当座預金、普通預金、積立預金及び出資金は認める。
定期預金のうち、田中義子名義の五〇万円の定期預金(別紙3の資産負債増減内訳表の科目3に記載のもの)が原告田中の資産であることは否認し、その余は認める。右定期預金は、田中義子に帰属し、同原告に帰属するものではない。したがって、定期預金の金額は、二七七万三三二三円である。
期末貸付金に対する認否は、別紙4の期末貸付金内訳表の否認欄記載のとおりであり、同表の番号21の小早川守及び同51の三宅昭雄に対する各貸付金は認否する。原告田中が右小早川に同原告振出の小切手の引出しを依頼したところ、同人は、右小切手に裏書して小切手金の支払を受け、これを同原告に手交しているのであって、右小切手金は、貸付金ではない。同原告は、右三宅に小切手で代書料を支払ったのであって、右小切手は、貸付金ではない。
同番号7の岡本亨、同19の株式会社呉不動産商会、同27の鈴木清、同28の有限会社西晃重機、同41の広島協和自動車株式会社、同43の藤井紀代子、同45の松崎勉、同56の山田多美子及び同60の西尾ヒフミに対する各貸付金については、期末現在の残高が同被告主張のとおりであることは認めるが、前記認否欄記載のとおり、その全部又は一部が期末以後に貸倒れになったので、所得税法六三条(事業を廃止した場合の必要経費の特例)の規定が適用され、当該貸倒金は同原告の昭和四四年分の所得金額の計算上、貸倒損失として必要経費に算入されるべきものである。なお、本件においては既に更正が行われているから、同条の規定する通則法二三条一項の更正の請求の有無にかかわらず、本訴において貸倒損失を主張し得るものと言うべきである。
同番号20の谷口榮男の貸付金残高は、一〇万一〇〇〇円であり、これも右同様貸倒れとなっている。
(2) 期末負債(借入金)について
別紙3の資産負債増減内訳表の科目8の借入金は認める。
しかし、期末負債としては、右借入金以外に別紙6の期末借入金内訳表記載の借入金合計二一〇〇万五〇〇〇円があった(原告田中は、田中米穀株式会社に依頼して約束手形を割り引いていたが、期末現在別紙7記載の割引手形が未決済であり、同手形金額合計四七〇万五〇〇〇円が結局原告の右会社に対する期末借入金となる。)ので、期末負債額は、合計三四二七万七五〇〇円となる。
(3) 期首資産について
当座預金、普通預金、定期預金、積立預金及び出資金は認める。
期首貸付金に対する認否及び原告田中が主張する金額は、別紙5の期首貸付金内訳表の金額<2>(原告田中の主張)欄記載のとおりであり、同表の番号1ないし41のうち、2、3、5ないし10、12ないし18、21、23ないし29、32ないし34、36ないし39及び41は認め、その余は金額を争う(金額は、同欄記載のとおり)。そして、期首貸付金としては、同表の番号1ないし41以外に番号42ないし56の貸付金が存在する。
被告東税務署長は、期首貸付金を現在に存在していた貸金残高によらないで、昭和四四年一月一日以降に回収された金額をもって確定しているのであるから、期首に実在していた貸付金のうち同日以降貸倒れとなったものを期首貸付金として計上していないことになる。しかし、期中に貸倒れとなり、回収されなかった貸付金も期首貸付金であることはいうまでもなく、資産負債増減法では、当然期首資産として計上すべきである。そうしないと、右期首貸付金に係る貸倒未回収金額相当額は、当期の損失であるのに、右損失が所得計算上控除されないことになり、資産負債増減法により増加資産の額が貸倒未回収金額だけ過大に算定される結果になる。
(4) 期首負債について
認める。
(六) 同2の(四)の(2)は否認する。
(七) 同2の(四)の(3)、(4)のうち、原告田中の昭和四四年度の不動産所得及び給与収入の額が被告東税務署長主張のとおりであることは認める。
(八) 同2の(四)の(5)は否認する。四五四三万一五九六七円の欠損である。
(九) 同2の(五)のうち、不動産所得及び給与所得の額は認めるが、その余は否認する。
(一〇) 同2の(六)、(七)は争う。
五 原告田中の反論に対する被告東税務署長の再反論
1 期首の日について
本件甲原処分の調査担当者が資産負債増減法の期首の日を昭和四四年一月一日と記載すべきところを、貸借対照表の期首の日を昭和四三年一二月三一日と記載したにすぎず、その実質は、昭和四四年度の前年一二月三一日末現在額で資産負債のすべてを把握しているものである。したがって、この金額は、翌昭和四四年一月一日に同額が繰り超されて翌期首となるのであるから、何ら期間的な問題は生じない。
2 処分理由の差替えについて
原告田中は、いわゆる白色申告者であり、白色申告に対する課税処分では処分の理由附記の要請がなく、理由の差替えを制約する事情もないから、原処分、異議決定及び審査裁決の際には考慮されなかった事実を、再更正の手続きを経ないで、原処分を維持する理由として、訴訟の過程に至って新たに主張することは許されるから、本件において、被告東税務署長が訴訟上原処分等と異なる計算方法により同原告の事業所得金額を主張することは当然に許される。
3 期末貸付金について
仮に、原告田中が主張するように、期末以降貸倒れが発生したとしても、右期末現在の貸付金は、同原告が現代取締役となって昭和四四年一二月二四日に設立された原告会社が原告田中から引き継いでいるのであるから、右引継後に貸付金の貸倒れが発生したとしても、その貸倒れ損失は、原告会社のものであって、原告田中の貸倒損失ではない。
また、所得税法上、事業を廃止した後に貸付金の貸倒が発生したとしても、その貸倒損失が同法六三条に規定する、事業を廃止した日の属する年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されるためには、同法一五二条の規定により、貸倒れの事実が生じた日の翌日から二月以内に、税務署長に対して通則法二三条一項の規定による更正の請求をしなければならない。したがって、当該二月以内に更正の請求がなされない場合は、事業所得の金額の計算上必要経費として認めることはできないのであるから、仮に期末現在の貸付金が原告会社に引継がれていなかったとしても、原告田中は、右更正の請求を行っていないので、その貸倒損失は、昭和四四年分の事業所得の金額の計算上必要経費とはなり得ない。
(乙事件)
一 請求原因
1 原告社会は、同田中を代表取締役として昭和四四年一二月二四日に設立された金融等を業とする法人であり、右設立後から昭和四五年一〇月三〇日までの期間において、被告西税務署長から法人税について青色申告の承認を受けていた。
2(一) 原告社会は、別紙9の法人税の課税経過表の確定申告欄記載のとおり、昭和四五年一二月二八日、同被告に対し四四事業年度の法人税について総所得金額を四三八万九七一二円とする確定申告をした。
(二) 同被告は、同原告に対し昭和四七年五月九日付けで右青色申告の承認を取り消す旨の処分(以下「本件取消処分」という。)をした上、同表の更正欄記載のとおり、総所得金額を一八七九万一七八円とする更正処分をした(以下、これを「本件乙更正」といい、本件取消処分と併せて「本件乙各処分」という。)。
(三) 同原告は、同被告に対し、同年六月九日、本件乙各処分を不服として異議申立てをしたが、同被告は、同年九月七日、これを棄却する旨の決定をした。そこで、同原告は、国税不服審判所長に対し、右決定を不服として審査請求をしたが、同所長は、昭和五一年二月二八日、これを棄却する旨の裁決をした。
3 本件乙各処分は、次の理由で違法である。
(一) 手続上の違法
(1) 本件乙更正は、通則法二四条及び法人税及び一五六条二項の各規定に違反してなされた手続上違法な処分である。
(2) 本件取消処分の処分通知書(以下「本件取消通知書」という。)には、法人税法一二七条二項に定める理由附記がなく、同処分には、重大かつ明白な瑕疵があるから無効である。
(二) 本件乙更正のうちから所得金額四三八万九七一二円を超える部分は、所得の認定を誤り、原告会社の所得を過大に算定したものであるから違法である。
4 よって、原告会社は、本件取消処分が無効であることの確認及び本件乙更正のうち総所得金額四三八万九七一二円を超える部分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1及び2は認める。
2 同3は争う。
三 被告西税務署長の主張
1 手続上の適法性
(一) 本件乙更正は、原告会社及び原告田中に脱税の嫌疑があったことから、広島国税局査察部の査察官が調査に着手し、その調査で得た資料を被告西税務署長が更に調査検討した上で行ったものであるが、課税庁が内部において既に収集した資料を基礎として正当な課税標準を求めることも通則法二四条に規定する調査に該当するから、右更正は、同条の規定に違反せず、適法である。
また、仮に、税務所長による調査がなされていない場合であっても、更正又は決定をするに必要な資料が調査をするまでもなく既に収集されているような場合には、改めて調査をすることなく更正又は決定をしても、これをもって違法事由とすることではない。
(二) 法人税法一五六条の規定は、同法一五三条ないし一五五条の規定による国税庁、国税局又は税務署の職員の質問、検査の権限を犯罪捜査に利用することを禁止する趣旨であり、国税犯則取締法に基づく調査によって得られた資料を徴税の資料として利用することまで禁ずる趣旨ではない。したがって、同法に基づき国税査察官の収集した資料を法人税の課税資料として利用しても法人税法一五六条の規定の趣旨に反するものとはいえない。
(三) 法人税法一二七条二項が青色申告承認取消通知書に理由附記を命じている趣旨は、取消事由の有無についての処分庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、取消しの理由を相手方に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えるためである。
本件取消処分は、原告会社が同条一項三号に該当するとして行われたものであるが、右規定の趣旨からして、少なくとも同号に該当することによって青色申告承認の取消しをする場合は、その取消通知書に同号に該当する旨記載しただけでは足りず、更に、処分の相手方が当該事業年度の帳簿書類の取引の全部又は一部を隠ぺい若しくは仮装して記載したため取り消すのか、それとも、その他該当事業年度の帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当な理由があったため取り消すのか区分を明らかにした上、もし後者の場合であるのなら、帳簿書類の記載全体についてその真実性を疑うに足りる相当な事由とはいかなる事由を指すのか明示しなければならないと解される。
ところで、本件取消し通知書の取消処分の基因となった事実欄には、「昭和四四年一二月二四日から昭和四五年一〇月三一日までの期間において、貸付金の一部を除外し、当該貸付金に対する受取利息を控除している。」と記載されており、同通知書の本文において、右が「法人税法第一二七条第一項第三号に該当するので………これを取り消した」との記載がなされている。
そうすると、本件取消通知書には、原告会社が当該事業年度の帳簿書類に取引の一部を隠ぺいして記載するという法人税法一二七条一項三号該当の事由があったため青色申告承認を取り消した旨記載されているだけでなく、それ以上に、いかなる勘定科目(貸付金及びそれに対する受取利息」の取引について、どのような態様(除外する。記載しないとの意味)で隠ぺいしたかまでを除外された期間も特定した上、具体的に記載されている。
右の程度の記載がされれば、通知書に記載された当該条項の記載とあいまって、被処分者にその処分の根拠となった事実が充分に理解でき、被処分者の不服申立てに不便はない(被処分者は、自己の受取利息が帳簿記載のとおりであることを主張すればよい。)し、また、処分庁の判断の公正妥当性も担保されている。
法人税法、一二七条の前記立法趣旨からして右程度の理由附記でその目的は十分達せられるのであり、理由附記として、除外した貸付金及びそれに対する受取利息を一つ一つの個別的に記載することまでは要求されていないものというべきである。
したがって、本件取消通知書には、法人税法一二七条二項が要求している理由が附記されているのであるから、何らの瑕疵も存しない。
仮に、本件理由附記に瑕疵があったとしても、その瑕疵は、本件取消処分を無効ならしめるほどに重大かつ明白であるといえない。
2 所得金額算定の適法性
(一) 推計課税の必要性及び合理性について
被告西税務署長が原告会社の四四事業年度の所得について調査したところ、同原告が貸金の一部を除外していることが判明した。しかし、貸付金台帳その他同原告の収入、利息を記録した帳簿書類が存在せず、また、同原告が調査に協力しなかったため、同被告は、右除外した貸金に係る受取利息の金額を明らかにすることができず、収支計算によって所得金額を実額で計算することは到底不可能であった。そこで、同被告は、やむを得ず、法人税法一三一条の規定を適用し、調査によって把握できた事業年度初及び事業年度末の貸付金等の各科目の金額を基にして、同原告の資産負債の増減計算を行い、同原告の所得金額を推計により算定したのであって、本件乙更正は適法である。
(二) 原告会社が原告田中の営業財産全体を原告会社の簿外資産として原告田中から引き継いだことについて原告田中は、原告会社が昭和四四年一二月二四日に設立されると同時に貸金業を廃止し、原告会社は、原告田中が廃業時に有していた営業財産全体は簿外財産として引き継いだのであって、右簿外財産から生ずる所得は、原告会社に帰属するものである。
(三) 原告会社の四四事業年度の所得金額について
本件乙更正は、原告会社の期首及び期末における簿外の資産及び負債を調査をして各々その純資産額を算出し、その差額を同原告の所得と認定したものであるが、右簿外財産は、原告会社の簿外財産と原告田中の個人の財産が混然一体となっている財産であるので、原告会社の簿外法人所得金額を算出するには、右期首、期末の各純資産額の差額の部分と当該期間中に原告田中が生活費として費消した部分との合計額が原告田中個人の収入と原告会社の簿外法人所得金額との合計額であると考える必要がある。
したがって、原告会社の簿外法人所得金額は、純資産増加額に原告田中の生活費を加算した金額から同原告の給与収入と不動産所得金額を控除した金額であり、原告会社の総所得金額は、右簿外法人所得金額に申告所得金額を加えた金額となる。
(1) 純資産の増加額
原告会社の四四事業年度における期首及び期末の簿外の資産及び負債の額は、別紙10の1の(1)の資産負債増減表のとおりであり、その内訳は、別紙11ないし13のとおりである。
したがって、原告会社の四四事業年度の純資産増加額は、別紙10の1の(2)のとおり、一六四六万五九四四円である。
(2) 原告田中の四四事業年度中の生活費
別紙10の2のとおり、一八九万四九六五円である。
(3) 原告田中の四四事業年度中の給与収入金額
別紙10の3のとおり、二五六万四七六円である。
(4) 原告田中の四四事業年度中の不動産所得金額
別紙10の4のとおり、五一万八三〇二円である。
(5) 原告会社の四四年度の申告所得額
別紙9の4法人税の課税経過表の確定申告欄記載のとおり、四三八万九七一二円である。
(6) 原告会社の四四事業年度の所得金額は、右(5)の申告所得額に右(1)の純資産の増加額及び右(2)の原告田中の生活費を加算した金額から右(3)、(4)の原告田中の給与及び不動産所得の金額を差し引いた一九六七万一八四三円となる。
(四) よって、右金額の範囲内で原告会社の所得金額を一八七九万一七八円と認定した本件乙更正は、適法である。
四 被告西税務署長の主張に対する認否及び反論
1(一) 同被告の主張1(一)のうち、国税査察官が調査に着手し、資料を得たことは認めるが、その余は争う。
被告西税務署長は、本件乙更正をするに当たり、法人税法一五三条に基づく質問、検査はもちろん、何ら通則法二四条に定める調査を行っていないのであって、本件乙更正は、同条に違反する違法な処分である。
(二) 同1の(二)は争う。
被告西税務署長は、本件乙更正を行うに当たり、法人税法一五三条に定める質問、検査は一回も行わず、警察官や国税査察官が原告田中や原告会社に対する犯則事件について犯罪捜査の目的で収集した資料を基礎として本件乙更正を行った。しかし、法人税法一五六条が、同法一五三条ないし一五五条の規定による質問検査(一般税務調査)の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない旨規定していることに照らし、犯罪捜査に従事すべき国税査察官や警察官は、右権限を行使することができないものである。しかも、右犯則事件は、告発はもちろん、公訴提起もなされなかったのであるから、本件乙更正についての調査は、本来一般税務調査として行われるべきものであった。しかるに、本件乙更正は、警察官及び国税査察官が逮捕、勾留あるいは捜索等の手法により収集した資料に基づいてなされものであるから、法人税法一五六条に違反する。
(三) 同1の(三)のうち、本件取消通知書の取消処分の基因となった事実欄に同被告主張のとおり記載されていることは認められるが、その余は争う。
本件取消通知書の右記載のうち、<1>「昭和四四年一二月二四日から同四五年一〇月三〇日までの期間において」という部分は、単に事業年度を示すのみで、取消しの基因となった事実が事業年度中に発生したという意味内容しか有しないものであって、事実を特定する要素である取消原因の発生日を記載したものではない。次に、<2>「貸付金の一部を除外し」とある部分は、何人に対する貸付金をどのような方法により除外したものであるかの記載がないから、これをもって除外された貸付金を他から区別、特定して記載したものということはできない。また、<3>「当該除外貸付金に対する受取利息を除外している」との部分も、同様に除外したという受取利息を特定して記載したことにはならない。
このように、本件取消通知書には、取消処分の基因となった事実について、事実を特定するための要素である日時、貸付けの相手先、貸付金額、その利息金額、除外の方法等が全く記載されていないから、取消しの処分の基因となった事実の記載がないものというべきである。
したがって、本件取消通知書には、法人税法一二七条二項に違反する重大な瑕疵があるというほかなく、右瑕疵は、何人もその存在を容易に確定することができ、外観上明白である。
2 同2は争う。
原告田中がその所有する財産を原告会社に引き継いだかどうかは、その当事者の引き継ぐことについての合意があったかどうかの事実に基づき判断すべきであるところ、原告田中と原告会社との間には、引継ぎについて何らの合意もなされていないし、また引継ぎによる財産移転の事実もない。
法人税法一三一条は、「その内国法人」の財産若しくは債務の増減の状況により、その内国法人に係る法人税の課税標準を推計することができる旨定めているが、本件乙更正は、「その内国法人」でない原告田中の資産負債を基礎として行われており、同条に違反するものである。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
第一甲事件について
一 請求原因1は当事者間に争いがない。
二 そこで本件甲更正の適法性について判断するに、原告田中は、同処分には、手続上の適法がある旨主張するので、先ずこの点について検討する。
1 通則法二四条違反について
(一) 弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一八八ないし第一九三号証、証人青木頼夫、同安永功の各証言及び弁論の全趣旨によると、広島国税局査察部の査察官は、原告田中及び同原告が代表取締役をしている原告社会の取得税及び法人税の確定申告署の検討等により、原告らに所得税及び法人税につき脱税の嫌疑があると思料し、昭和四六年四月に右犯則事件の調査に着手し、約一年間にわたって調査を行ったこと、その結果、同査察官は、原告らに右犯罪行為があるとの結論に達したが、犯則金額、犯則内容その他の事情を総合的に検討した結果、原告らについては、国税犯則取締法に基づく告発は行わないことになり、公訴提起もなされなかったこと、しかし、原告らに過少申告の事実であったので、同査察官は、原告田中に、つきその所轄税務署長である被告東税務署長に、原告会社につきその所轄税務署長である被告西税務署長にそれぞれ右調査結果を報告し、調査資料を引き継いだこと、被告らは、右引き継いだ調査資料に検討を加えた上、更正処分を行ったこと、なお、右査察において、査察官は、原告田中に前後三回面談し、調査への協力を求めたが、同原告は、「国税局が勝手に調査着手したのであるから、勝手に調査したらよい。いずれ裁判で争うことになる。」などと述べ、協力の姿勢が全く見られず、被告らに引き継がれた後も協力が得られる状況になったので、被告らは、原告らに対し所得税法二三四条一項又は法人税一五三の規定に基づく質問、検査を行っていないことが認められる。
(二) ところで、通則法二四条(更正)の調査とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものと解せられ、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈を経て更正処分に至るまでの思考、判断を含む極めて包括的な概念である。そして、右調査の方法、時期などその具体的な手続については、何ら規定されておらず、その点では、課税庁に広範な裁量権が認められているものと解される。そして、課税庁が内部において既に収集した資料を検討して正当な課税標準を認定することも、右裁量権の範囲内であり、通則法二四条に規定する調査に含まれるものと解すべきところ、前記認定によれば、被告東税務署長は、査察官から引き継いだ資料に検討を加え、本件甲原処分に及んだことが認められるから、右処分をもって通則法二四条に規定する調査に基づかない違法があるものということはできない。
(三) 原告田中は、被告東税務署長は、同原告に対し所得税法二三四条一項の規定に基づく質問、検査を行っていないと主張するところ同被告が前記認定のような事情から同原告に対し質問、検査を行っていないことは前記認定のとおりである。しかし、同項の規定は、税務調査において対外的に課税に関する証拠資料を収集し、確認する必要がある場合があることにかんがみ、税務調査に当たり、調査の一方法として質問、検査を行う権限を認めた趣旨であって、質問、検査は、通則法二四条の更正をする場合の要件ではないから、質問、検査が行われなかったからといって同条に違反するものではないことは明らかである。
2 所得税法二三四条二項違反について
所得税法や法人税法の各税法上の調査は、右各税法の定める租税の納付、賦課、徴収を適正ならしめるために質問、調査等を行うものであり、これに対して国税犯則取締法上の調査は、犯則事件の存在することの嫌疑のもとに通告処分や告発を終局の目的として証拠を発見、収集するものであって、両者は、その目的、性格を異にし、特に後者は、直接強制の手段も認められ、刑事手続に準ずる性格を有するものであるから、両者は、厳格に区別して行使することが必要であり、各税法上、「質問又は検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。」と規定されているところである(所得税法二三四条二項、法人税法一五六条等)。したがって、質問検査の権限を犯罪捜査のために行使したり、逆に、犯則事件の嫌疑がないにもかかわらず、専ら租税の賦課、徴収を目的として国税犯則取締法上の調査の手段を用いるようなことは、許されないと解している。しかし、そのことから直ちに同法に基づく調査によって得られた資料を課税処分を行うため事後的に利用することまで禁止されていると解すべき理由はなく、国税査察官が納税者に対し犯則事件が存在することの嫌疑もないのに、専ら課税資料を収集する目的で同法に基づく強制調査を行い、資料を収集したような場合は格別、国税査察官が犯則嫌疑者に対して同法に基づく調査を行った場合に、課税庁が右調査により収集された資料を右の者に対する課税処分や青色申告承認の取消処分を行うために利用することは許されるものと解するのが相当である。
本件についてこの点を検討するに、前記1認定の事実によれば、広島国税局査察部の査察官は、原告田中及び原告会社に対する犯則事件が存在することの嫌疑に基づいて国税犯則取締法により調査を行ったものと認められ、右調査が犯則事件の嫌疑がないのに、専ら所得税、法人税の賦課、徴収等を目的として行われたものとは認められないのであって、被告らが原告らに対する更正処分や青色申告承認取消処分を行うに当たり、査察官から引き継いだ調査資料を利用することが許されないと解すべき事情が存したものとは認め難く、右利用をした点には、違法はないものというべきである。
なお、原告らに対する犯則事件について告発、公訴提起がなされなかったことは前記認定のとおりであるが、これは、調査の結果に基づいて事後的に判断されたことであり、これをもって査察官の調査が犯則事件の嫌疑がないにもかかわらず行われたものであると認めることは到底できず、告発、公訴提起が行われなかった点は、前記認定判断を左右するものではないというべきである。
したがって、被告東税務署長が前記認定のとおり査察官から引き継いだ調査資料を利用して行った本件甲原処分をもって、所得税法二三四条二項に違反する違法があるものということはできない。
3 不服申立ての妨害について
原告田中は、不服申立てを妨害された旨主張するが、同原告主張のような事由が更正処分の取消事由となり得るものとは認め難いばかりでなく、右妨害の事実を認めるに足りる証拠はないから、右主張は失当である。
三 次に、所得金額算定の適法性について判断するに、被告東税務署長の主張2の(一)のうち、原告田中の昭和四四年分の不動産所得金額及び給与所得金額が同被告主張のとおりであることは当事者間に争いがないので、以下、事業所得金額について検討する。
1 事業所得金額の推計の必要性
原告田中が金融業を営んでいたことは当事者間に争いがなく、証人青木頼夫の証言及び原告田中本人尋問の結果によれば、原告田中個人の金融業に関する基本的な帳簿である貸付金台帳、その他収入、利息を記録した帳簿は作成されておらず、原始記録の保管もなされておらず、これらについてはいずれも提出されなかったこと、原告会社についても、公表帳簿は作成されていたが、いわゆる簿外取引に係る帳簿、証憑書類は作成されておらず、提出されなかったこと、そして、原告田中は、前記二の1認定のとおり調査に対し非協力的態度に終始したこと、そのため、被告らは、原告らの事業所得の金額を実額で把握することができず、右金額を推計により算出して更正に及んだことが認められる。
右認定の事実関係によれば、被告東税務署長は、原告田中に対し本件甲原処分をするに当たり、推計の必要性があったことが明らかであり、したがって、推計課税によることは適法であるというべきである。
2 推計の合理性
ところが、証人青木頼夫、同安永功の各証言によると、被告東税務署長は、原告田中の昭和四四年の事業所得金額を推計する方法として、資産負債増減法を用い、昭和四四年一月一日から同年一二月二三日までを計算期間として算定したことが認められるところ、被告東税務署長が本訴において主張する資産負債増減法は、同原告の右計算期間の期末(同年一二月二三日)における純資産額(総資産税額から総負債額を控除した残額)から期首(同年一月一日)におるけ純資産額を控除して得られた金額(右計算期間中の純資産の増加額)に、調査項目加算額として、生活費(所得の処分に相当する事由に係る金額)を加え、調査項目減算額として、事業所得以外の所得に係る金額を差し引くことによって同原告の事業所得を算出するものである。
右推計方法自体は、考え方として合理的であり、期首、期末の資産及び負債中の各科目並びに調整項目加算額及び調整項目減算額中の各項目の全額が正確に評価ないし算定している限り、推計方法として合理性を有しているものということができる。
そこで、同原告の資産のうち期首、期末における同被告主張の貸付金が正確に算定されたものであるかどうか検討する。
原告田中本人尋問の結果によると、同原告は、裏付けの際、ほとんどの場合、相手方から弁済期を満期とする約束手形又は弁済期を振出日とする先日付の小切手の交付を受け、これを取引金融機関を通じて取立てに回し、その決済により貸付金の元金、利息を回収していたことが認められる。
そして、証人青木頼夫の証言、これにより真正に成立したものと認められる併合前の甲事件の乙第一三四号証(併合前の乙事件において提出された乙号証中には、併合前の甲事件において提出された乙号証と同一のものがあるが、以下、書証は、特に断らない限り、甲事件の号証をもって表示することとする。)及び弁論の全趣旨によると、次のとおり認められる。
(一) 原告田中の取引金融機関は、同原告から同原告が前記のように貸付先から受け取った約束手形や小切手を交換持出手形(小切手)として受け入れていたところ、原告らに対する犯則事件の調査を担当した広島国税局査察部査察官である青木頼夫ら(以下「青木ら」という。)は、右取引金融機関が右交換持出手形(小切手)を撮影していたマイクロフィルム等を基に、決済又は不渡りになった手形、小切手につき、取立年月日、手形の種類(手形、小切手の別)、手形の振出日、手形の満期、手形金額、入金先(原告田中を示す。)、振出人(原則として同原告の貸付先を示す。)その他参考事項を調査し、貸付先ごとに右事項を記載した銀行為替(手形)取引調査票(乙第三七号証等)を作成した。ところで、青木らは、同原告が貸付先から受け取った約束手形、小切手に係る貸付金が期首又は期末に存在するものか否かを判断するに当たっては、右調査票に基づき約束手形等の同原告への交付時期が振出日の記載等から期首(昭和四四年一月一日)又は期末(同年一二月二三日)より前であることが判明する場合は、期首又は期末の各日と約束手形の満期や小切手の振出日(先日付)との関係から期首又は期末に存在する貸付金か否かを判断し、交付時期が判明しない場合は、約束手形の満期又は小切手の振出日が期首又は期末から一箇月以内のものに係る貸付金に限って期首又と期末に存在したものと認定した。そして、青木らは、右取引調査票や右認定に基づき、原告田中に係る昭和四三年一二月三一日末現在の貸付金残、昭和四四年一月一日から同年一二月二三日までの貸付先からの入金額、同月二三日現在の貸付金残等を貸付先ごとに記載した調査事績書(乙第一三四号証)を作成した。
(二) 被告東税務署長が本訴で主張する期首貸付金残高一五〇八万八〇〇円は、右調査事績書の昭和四三年一二月三一日貸付金残欄記載の貸付金残高一四六七万八〇〇円に審査裁決で認められた長井荒雄に対する貸付金二一万円(別紙5の期首貸付金内訳表の番号26記載のもの)及び有限会社陽光物産に対する貸付金二〇万円(同番号40記載のもの)を加算した金額であり、同じく期末貸付金残高二八七三万七二〇〇円は、右調査事績書の昭和四四年一二月二三日貸付金残欄記載の貸付金残高二八四三万七二〇〇円に審査裁決で認められた有限会社西晃重機に対する貸付金三〇万円(別紙4の期末貸付金内訳表の番号28記載のもの)を加算した金額であり、同被告主張の期首、期末の貸付金の金額は、基本的に右調査事績書の昭和四三年一二月三一日貸付金残欄及び昭和四四年一二月二三日貸付金残欄記載の金額に依拠している。
右のとおり認められる。
そして、証人青木頼夫は、前記(一)認定のように約束手形の満期又は小切手の振出日が期首又は期末から一箇月以内のものに係る貸付金に限って期首又は期末に存在したものと認定した理由として、原告田中が貸付先から受け取っていた手形、小切手のサイトがおおむね一箇月であったからである。と証言している。
しかし、成立に争いのない乙第六一号証の二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三九号証の三、四(官署作成部分の成立は争いがない。)、第四五証の二、第五二号証の二(官署作成部分の成立に争いがない。)、第六七号証の一ないし三、証人青木頼夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇〇号証、第一二五号証の二、証人和田堅二の証言及び原告田中本人尋問の結果によると、原告田中は、貸付先から一箇月を超えるサイトの約束手形を受け取っていることが少なくないことが認められ(例えば、前記甲第五二号証の二、乙第一〇〇号証によると、同原告の貸付先である有限会社西晃重機は、昭和四四年一二月一七日に同原告に対し振出日同日、満期昭和四五年一月一五日の約束手形を振り出し、交付していることが認められる。)原告田中は、サイトが二、三箇月の手形を受け取っていた(サイトが一箇月や四箇月のものもある。)と供述し、証人和田堅二も手形のサイトは二箇月位であったと証言している。
また、証人小林繁美、同門脇博三、同大濱悟、同黒田住男、同谷口榮男、同福田茂の各証言、原告田中本人尋問の結果によると、同原告は、貸付先から振出しを受けていた手形等の決済ができない場合、取立てに回さないで利息を受け取って手形等の書替えに応じることがあったことが認められるから、期首又は期末から一箇月を超える日数が経過した後に決済された手形等に係る貸付金の中にも、期首又は期末に存在していたものもあることが認められる。
以上によれば、約束手形の満期又は小切手の振出日が期首又は期末から一箇月以内のものに係る貸付金に限って期首又は期末に存在したものと認定するのは根拠薄弱であるといわなければならない。
また、証人青木頼夫の証言によると、同原告の貸付金の中には、手形や小切手によらず、同原告に対し直接現金を支払って決済されたものが存在すること、右現金決済された貸付金については、前記調査事績書には記載されていないこと、また前掲甲第四五号証の二、成立に争いがない甲第六九ないし第七三号証の各一、二、第九〇号証、証人土井巳代子の証言により真正に成立したものと認められる甲第三一号証の二ないし八、証人花岡正之の証言により真正に成立したものと認められる甲第三二号証の二(官署作成部分の成立は争いがない。)、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三五号証の三によると、原告田中が貸付先から受け取っていた手形や小切手が期首前又は期末前に不渡りになったため、期首、期末において末回収のまま存在していた右手形等に係る貸付金(例えば、前記甲第六九ないし第七三号証の各一、二によると、同原告は、貸付先である丸石真美(別紙5の期首貸付金内訳表が番号42の貸付先)から満期を昭和四三年六月から同年一一月までの毎月末日とする約束手形五通の振出しを受けていたが、いずれも不渡りになったこと、したがって、同原告は、期首において右手形に係る貸付金を有していたものと推認される。)も前記調査事績書に記載されていないことが認められる。
以上検討した点に照らすと、前記調査事績書(乙第一三四号証)の昭和四三年一二月三一日貸付金残欄及び昭和四四年一二月三一日貸付金残欄の金額は期首及び期末における原告田中の貸付先に対する貸付金の実態を正確に反映するものと認め難く、これをもって同原告の期首、期末の貸付金の金額を認定するのは合理性に乏しいものと認めざるを得ない。他に、右金額を認定し得る的確な証拠はない。
資産負債増減法により納税者の所得金額を推計する場合、その合理性を肯定するためには、期首、期末における資産、負債の各科目の金額が正確に評価、算定されていることが前提であるところ、以上によれば、原告田中の期首、期末の資産科目である貸付金の金額(被告東税務署長の主張によると、貸付金の金額が全資産額に占める割合は、優に五割を超えている。)を正確に算定することが困難であり、同原告の事業所得の金額を同被告主張の資産負債増減法により推計するのは、合理性を有しないものといわざるをえない。
3 同業者比率法による推計
そこで、同原告の事業所得の金額を同被告主張の同業者比率法により推計することとする。
(一) 処分理由の差替え
原告田中は、訴訟において本件甲原処分と異なる処分理由を主張することは許されない旨主張する。
しかし、課税処分取消訴訟の訴訟物は、当該課税処分に係る総課税対象金額に対する課税の違法性一般であって、課税庁が当該課税処分時に現実に認定した処分理由との関係における税額の適否ではないと解すべきであるから、訴訟の対象の面から、原処分と異なる理由を訴訟において主張することが制約されることはないものというべきである。
そして、課税処分によって確定された税額が総額において租税実体法によって客観的に定まっている税額を超えていなければ、当該課税処分は、現実に認定した処分理由のいかんにかかわりなく、実体法上適法であり、したがって、取消訴訟の審理の範囲は、課税処分によって確定された税額が処分時に客観的に存在した税額を上回っているか否かを判断するために必要な事項の全部に及び、税額算出の根拠となる事実は、単なる攻撃防御方法にすぎないと解すべきである。
しかして、成立に争いがない乙第一六四号証によると、原告田中は、いわゆる白色申告者であることが認められるところ、白色申告書に係る税額等の更正の場合、青色申告書に係る税額等の更正の場合と異なり、処分の根拠となった理由を記載する必要はないのであって、攻撃防御方法である処分理由に係る主張を制限する実定法上の根拠はないものとういべきであるから、課税庁は、当該課税処分における認定理由に拘束されることなく、訴訟の段階で課税処分に係る税額を維持するため、処分時に客観的に存在した一切の理由を主張することにより、処分理由を差し替えることが可能であると解される。
よって、同原告の右主張は、採用することができない。
(二) 計算期間
原告田中の昭和四四年度の事業所得の金額を算定する場合の計算期間について検討するに、同原告本人尋問の結果によると、同原告は、昭和四二年から田中商事の商号で金融業を営んでいたことが認められるから、右計算期間の期首は、昭和四四年一月一日である。
次に、期末について検討するに、成立に争いがない乙第一三一号証、併合前の乙事件の乙第一五九号証の一ないし、一六、証人重岡貴志男の証言により真正に成立したものと認められる乙第一三〇号証(官署作成部分の成立は争いがない。)、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる併合前の乙事件の乙第六七号証の一ないし三、第七〇号証、第七一号証の一、二、第八六号証の一ないし三、第八八号証、第八九号証の一ないし四、同号証の五、六の各一、二、第九〇号証の一、二、第九一、第一〇一号証、第一六二号証の一、二、第一六三号証の一ないし四、第一六四号証の一ないし五、第一六五号証の一、同号証の二の一、二、第一六六号証の一、二、第一六七号証の一ないし九、第一六八号証の一ないし七、第一六九号証の一ないし四、第一七〇号証の一ないし八及び証人青木頼夫の証言並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告田中は、前記のとおり個人で金融業を営んでいたが、昭和四四年一二月二四日、自らが代表取締役となって金融等を業とする原告会社を設立し、昭和四五年一月一三日、原告会社は、被告西税務署長に対し昭和四四年一二月二四日に原告会社を設立した旨の法人設立届書(同届書には、原告田中の個人企業を法人組織にした旨記載されている。)を提出し、原告田中は、被告東税務署長に対し、金融業は、法人設立のため昭和四四年一二月二三日限り廃止した旨の事業廃止届を提出した。
(2) 原告会社は、右設立後、取引(貸付け)の一部を公表帳簿にしたのみで、公表帳簿以外に簿外で取引を行っていたが、原告田中の個人営業時に発生し、同原告の廃業時(昭和四四年一二月二三日)現在存在していた貸付金債権(別紙4の期末貸付金内訳表の番号15の旭栄自動車株式会社、同19の株式会社呉不動産商会、同36の南部建材株式会社、同40の畑中貢、同41の広島協和自動車株式会社、同42の株式会社広島電子計算機センター、同43の藤井紀代子、同49の株式会社峰本製作所及び同54の守谷隆夫に対する各貸付金)について、原告会社がその設立後、原告田中が個人営業時に使用していた仮名の預金口座を引き続き利用して回収しており、また、原告会社は、原告田中の右廃業時以後も引き続いて個人営業時の貸付先と個人営業時の仮名の預金口座を利用して引取を行っている。
(3) 原告田中は、昭和四五年分以降個人として金融業による事業所得の申告をしていない。
右認定によれば、原告田中の個人時代の預金の中に同原告廃業後における簿外貸付金の回収金が、原告会社設立後における同原告の簿外資金と混合して預け入れられているほか、同原告設立後において同預金から同原告の簿外の貸付金が払い出されているのであって、個人時代の預金及び貸付金と原告会社設立後のそれが判然と分別管理されないで、渾然一体となって処理されていたものと認められるところ、原告田中は、前記規定のとおり、個人営業を廃止して法人成りして会社組織にしたものであり、その後は個人として事業所得の申告をしていないことを併せ考慮すると、原告会社は、その設立とともに、原告田中個人の営業財産全体を原告会社の簿外財産(公表財産以外の財産)として原告田中から引継ぎ、個人営業は、名実ともに廃止されて法人一本となったものであり、その事業に係る所得は、法人たる原告会社に帰属するせのと認めるのが相当である。
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる併合前の乙事件の甲第一、第二号証(いずれも官署作成部分の成立は争いがない。)及び原告田中本人尋問の結果によると、原告田中は、貸金業を昭和四五年一月九日に廃止した旨の届出を、原告会社は、貸金業を同月一〇日に開始した旨の届出をそれぞれ広島県知事に対してしたことが認められるが、この点は、右認定を左右するに足りないものと認められる。
したがって、昭和四四年一二月二四日以降に原告田中の個人事業に係る所得が発生する余地はないものと認められるから、原告田中の昭和四四年度の事業所得算定の計算期間の期末は、同年一二月二三日とすべきである。
(三) 原告田中の貸付金の回収金額について
前掲乙第一三四号証、証人青木頼夫の証言によると、同原告が貸付先から受け取っていた手形、小切手(同原告が貸付けに当たり、ほとんどの場合、貸付先から手形、小切手を受け取っていたことは前記認定のとおりである。)の決済により、係争事業期間(昭和四四年一月一日から同一二月二三日まで)中に貸付先から回収した金額(貸付回収金額の累計額)は、三億四五三二万五一〇〇円(前記調査事績書(乙第一三四号証)の昭和四四年一月一日から同年一二月二三日までの入金額欄の合計金額)であることが認められる。
被告東税務署長は、係争事業期間中に原告の預金口座に入金された合計金額から、預金利息、貸付金戻り利息及び金融機関からの借入金の入金合計金額を控除した残額から同原告の事業所得に係る収入金以外の収入金(不動産所得及び給与所得に係る収入金額)を差し引いた残額が貸付金の回収額であると主張するが、成立に争いがない甲第五七号証、証人田中重弘の証言、原告田中本人尋問の結果によると、同原告は、金融機関以外からも事業資金を借り入れていたことが認められるから、これが預金口座にいったん入金された可能性があり、また、同原告が預金を預け替えた可能性も否定できず、原告の預金口座に入金された金額から同被告主張の金額を控除した残額全部を貸付金の回収額と認めるのはやや困難であるといわざるを得ない。
そこで、同原告の貸付先からの回収金額を前記調査事績書により前記のとおり控え目に算定することとする(同原告の借主が手形等によらず、現金で決済することがあったこと、右現金決済分は、堰調査事績書の入金欄に記載されていないことは前記認定のとおりであるから、前記調査事績書により算定した同原告の貸付金の回収額は、実際の回収額を下回る控え目な金額であると認められる。)。
(四) 事業所得金額の算定
同原告の右貸付金の回収金額を基礎として、同業者である原告会社の金融部門における公表(確定申告)の利息割合(貸付金回収金額に対する受取利息金額の割合をいう。以下同じ。)及び経費率(受取利息金額に対する一般管理費、販売費及び支払利息、割引料、貸倒損失の合計金額をいう。以下同じ。)を適用し、原告田中の係争事業期間の事業所得金額を推計すると、次のとおりとなる。
(1) 貸付金に係る利息収入の金額
成立に争いがない乙第一六三、第一六五号証によると、原告会社の金融部門の四四事業年度(昭和四年一二月二四日から昭和四五年一〇月三一日まで)の受取利息(貸付利息収入)一九八六万九八九四円、貸付金の回収総額は一億五九二九万九五一一円であることが認められるから、同原告の公表の利息割合は、一二・四七パーセントとなる。
そこで、原告田中の係争事業期間における前記貸付金の回収額三億四五三二万五一〇〇円に右利息割合を乗じて同原告の貸付金に係る利息収入を求めると、四三〇六万二〇四〇円となる。
(2) 必要経費
次に、前掲乙第一六三証によると、原告会社の四四事業年度の一般管理費及び販売費は一〇三一万二五〇八円、原告田中に支給された役員報酬の金額は二三〇万円、支払利息、割引料及び貸倒損失の合計金額は五三三万九〇六四円であることが認められる。
そこで、一般管理費及び販売費については、原告会社が法人のため、原告田中(原告会社代表者)に支給した役員報酬を控除し、個人換算して修正すると、八〇一万二五〇八円となり、これに前記支払利息、割引料及び貸倒損失の合計金額を加算して、経費を求めると、一三三五万一五七二円となるので、これを前記受取利息の金額一九八六万九八九四円で除して経費率を求めると、六七・一九パーセントとなる。
次に、原告田中の前記利息収入金額四三〇六万二〇四〇円に右経費率を乗じて、必要経費を求めると、二八九三万三三八五円となる。
(3) 原告田中の事業所得の金額
したがって、前記(1)で算出した利息収入の金額四三〇六万二〇四〇円から前記(2)で算出した必要経費の金額二八九三万三三八五円を差し引くと、原告田中の係争事業期間、すなわち昭和四四年分の事業所得の金額は、少なくとも一四一二万八六五五円となる。
(4) 類似同業者比率の合理性
なお、類似同業者として選択した原告会社は前記認定のとおり、原告田中が昭和四四年一二月二三日に個人事業(金融業)を廃止した後に同原告が代表取締役となって設立された金融業を営む会社であって、その営業内容も同原告の個人営業が法人化されたものにすぎず、同原告のそれと全く同一である。また、証人青木頼夫の証言、原告田中本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告会社の営業場所も原告田中のそれと同一場所にあることが認められる。
したがって、原告会社の利息割合及び経費率は、原告田中にとって類似同業者比率というよりむしろ本人比率というべきものであり、適用時期に約一年のずれはあるものの、これを適用するに当たり特に支障となる理由は存しないものと認められるから、原告田中の昭和四四年の事業所得の金額を算出するに当たって、原告会社の四四事業年度の利息割合及び経費率を類似同業者比率として適用することは、妥当であり、右方法による推計は、合理性を有するものというべきである。
(五) 総所得金額の算定
原告田中の昭和四四年分の不動産所得金額が七二万四八〇円、給与所得金額が二七万二〇〇〇円であることは当事者間に争いがないから、同原告の昭和四四年分の総所得金額は、右(四)の(3)の事業所得金額、右不動産所得金額及び給与所得金額の合計額である一五一二万一一三五円となる。
四 結論
以上の説示に照らせば、本件甲更正のうち、総所得金額一五一二万一一三五円を超える部分は、原告田中の所得を過大に認定したものであって、違法である。
第二乙事件について
一 請求原因1及び2は当事者間に争いがない。
二 そこで、本件乙各処分の適法性について判断するに、原告会社は、同処分には、手続上の違法がある旨主張するので、先ずこの点について検討する
1 通則法二四条違反について
(一) 本件乙更正に至る経過につき第一の二の1と(一)のとおり認められる。
(二) 通則法二四条の調査の意義等については、右1の(二)に説示するとおりであり、右(一)の認定によれば、被告西税務署長は、査察官から引き継いだ資料に検討を加え、本件乙更正に及んだことが認められるから、右更正をもって通則法二四条に規定する調査に基づかない違法があるものということはできない。
(三) 原告会社は、被告西税務署長は、法人税法に基づく質問、検査を行っていないと主張するところ、同被告が右(一)認定のような事情から原告会社に対し質問、検査を行っていないことは前記認定のとおりである。しかし、第一の二の1の(三)に説示するとおり、質問、検査が行われなかったことをもって通則法二四条に違反するものでないことは明らかである。
2 法人税法一五六条違反について
第一の二の2において、説示したのと同じ理由により、被告西税務署長が査察官から引き継いだ調査資料を利用して行った本件乙更正をもって法人税法一五六条に違反する違法があるものということはできない。
3 本件取消通知書の理由附記の適法性について
法人税法一二七条二項後段が青色申告承認の取消しに理由附記を命じている趣旨は、右承認の取消しが右承認を得た法人に認められた納税上の種々の特典を剥奪する不利益処分であることにかんがみ、取消事由の有無についての処分庁の判断の慎重と公平妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、取消理由を相手方に知らせることによって不服申立てに便宜を与えるためであるから、附記の内容及び程度は、特段の理由がない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して処分がされたのかを、処分の相手方においてその記載自体から了知し得るものでなければならないところ、同条一項三号の事由は、極めて概括的で具体性に乏しいため、通知書に同号該当と附記しただけでは、処分の相手方は、帳簿書類の記載事項の全体について真実性が疑わしいとされた理由が、取引の全部又は一部を隠ぺい又は仮装したことによるのか、それ以外の理由によるのか等を、その通知書により具体的に知ることはほんとんど不可能であるから、右三号におけるように該当号数を示しただけでは取消しの基因となった具体的事実を知り得ない場合には、該当号数を附記するのみでは足りず、基因事実自体についても相手方が具体的に知り得る程度に特定して摘示しなければならないと解するのが相当である。
これを本件についてみると、本件取消通知書に「昭和四四年一二月二四から同四五年一〇月三〇日までの期間において貸付金の一部を除外し、当該貸付金に対する受取利息を除外している。」と記載されていることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、同通知書の本文において、右が「法人税法第一二七条第一項第三号に該当するので………これ(被告会社の青色申告承認を指す。)を取り消した」との記載がなされていることが認められる。
右記載によれば、原告会社が四四事業年度の帳簿書類に取引の一部を隠ぺいして記載したことが、法人税法一二七条一項三号の取消事由に該当するので、青色申告承認を取り消した旨記載されているほか、隠ぺいした取引の勘定科目は、貸付金及びこに対する利息であること、隠ぺい態様は、帳簿に記載しないで除外することであることが明らかにされているのであって、除外した貸付金の内容を貸付先その他によって個別的に特定してはいないが、右程度の記載によって処分の相手方の不服申立てに支障を来すことはないし、また、処分庁の判断の慎重と公正妥当も担保されているものと認められる。
したがって、本件取消通知書には、法人税法一二七条二項目に定める理由の附記がなされているものというべきであるから、理由附記に瑕疵がある旨の原告会社の主張は失当である。
なお、仮に、理由附記に瑕疵があるとしても、本件取消通知書には、前記のとおり、取消しの理由として該当法条が記載されているほか、取消しの基因となった事実も概括的にせよ記載されているのであるから、右瑕疵は、理由附記の程度がやや不十分であるというにとどまり、その程度は比較的軽微であって、本件取消を無効ならしめるほどの重大な瑕疵に該当するものではないと解すべきである。
以上いずれにしても、本件取消処分が無効である旨の原告会社の主張は採用できない。
三 所得金額算定の適法性
1 被告西税務署長は、原告会社の簿外所得につき推計課税の必要性があり、推計の方法として資産負債増減法が合理的であると主張しているところ、同被告主張の資産負債増減法は、同原告の四四事業年度の期末(昭和四五年一〇月三一日)における簿外の純資産額(総資産額から総負債額を控除した残額)から期首(昭和四四年一二月二四日)における簿外の純資産額(同被告は、原告会社は、原告田中の同年一二月二三日の廃業と同時に同原告の営業財産全体を簿外財産として引き継いだから、右純資産額は、原告田中の係争事業期間の期末(同年一二月二三日)における純資産額に一致すると主張している。)を控除して得られた金額(四四事業年度中の純資産の増加額)に、調整項目加算額として、原告田中の生活費(所得の処分に担当する事由に係る金額)を加え、調整項目減算額として、同原告の給与収入、不動産所得に係る金額を差し引くことによって原告会社の所得を算出するというものである。
そして、前掲乙第一三四号証、証人青木頼夫の証言及び弁論の全趣旨によると、青木らは、原告会社についても原告田中の場合と同様、第一の三の2の(一)認定の方法により原告会社が貸付先から受け取った約束手形等の調査を行って、銀行為替(手形)取引調査票(乙第七五号証等)を作成し、これに基づいて原告田中の場合と同様の認定方法により原告会社の昭和四五年一〇月三一日現在の貸付金を認定し、前記調査事績書に同日現在の貸付金残を貸付先ごとに記載したこと、同被告主張の原告会社の四四事業年度の期首、期末の貸付金の金額は、基本的に右調査事績書の昭和四四年一二月二三日貸付金残欄及び昭和四五年一〇月三一日貸付金残欄記載の金額に依拠していることが認められる。
ところで、資産負債増減法により納税者の所得金額を推計する場合、その合理性を肯定するためには、期首、期末における資産、負債の各科目の金額が正確に評価、算定されていることが前提であるところ、第一の三の2で述べたとの同じ理由により、原告田中の場合と同様、原告会社の期首、期末の資産科目である貸付金の金額(被告西税務署長の主張によると、貸付金の金額が全資産額に占める割合、は優に五割を超えている。)を正確に算定することが困難であり、同原告の所得の金額を同被告主張の資産負債増減法により推計するのは、合理性を有しないものといわざるを得ない。
他に、原告会社の所得の金額を合理的に推計し得る方法について主張立証がない。
2 よって、本件乙更正は、所得金額算定の適法性について立証がないことに帰するから、違法である。
第三まとめ
以上の説示によれば、原告田中の本件甲更正の取消請求は、総所得金額一五一二万一一三五円を超える部分の取消しを求める限度において理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、被告会社の本件取消処分の無効確認請求は、理由がないので棄却し、本件乙更正の取消請求は、理由あるので認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高升五十雄 裁判官 畑山靖 裁判官青柳勤は、転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 高升五十雄)
別紙1
田中務の昭和四四年分所得税の課税経過表
<省略>
別紙2
<省略>
別紙3
資産負債増減内訳表
<省略>
別紙4
期末貸付金内訳表
<省略>
別紙5
期首貸付金内訳表
<省略>
別紙6
期末借入金内訳表(原告田中主張)
<省略>
別紙7
期末負債の内田中米穀(株)からの原告田中主張の借入金四七〇万五〇〇〇円の内訳
<省略>
別表8
原告田中務の銀行預金等の入金の状況表
<省略>
別表9
扶桑商事株式会社の自昭和四四、一二、二四 至〃四五、一〇、三一事業年度分法人税の課税経過表
<省略>
別紙10
<省略>
別紙11
資産負債増減内訳表
<省略>
別紙12
期末貸付金内訳表
<省略>
別紙13
期首貸付金内訳表
<省略>